たはれ島
住吉自然公園から見える小さな島
「たわれ島」は、住吉自然公園の高台から見える小さな島(岩礁)です。
漢字で書くと「風流島」。たばこ島、はだか島などの別名もあるそう。
島の頂上には、高さ1.3m程度の小さな鳥居が見えます。
こんなに小さな岩場であるのに観光名所とされているのには理由があります。
それが、「伊勢物語」や「枕草子」などに登場する、平安時代から知られた島だから!
伊勢物語にも登場する「歌枕」に
和歌の題材に使われる歌枕でもある「たはれ島」。
例えば、伊勢物語の第六十一段「染河」ではこんなふうに詠まれています。
名にしおはば あだにぞあるべき たはれ島 浪の濡衣 着るといふなり
「その名の通りであれば、浮気者でいいかげんな『戯れ島』は、実際はそうではなく、波に洗われて波の濡れ衣を着ているだけなのです」といった意味。
これは、伊勢物語の主人公(作者の在原業平がモデル)が、九州北部へ行った際に「この人は女好き(色好み)として評判の風流人です」と言われて詠んだ
「染河を わたらむ人の いかでかは 色になるてふ ことのなからむ」の返歌。
主人公は「染川(太宰府神社あたりを流れる川)を渡った人がどうして色に染まらないことがありましょうか。通る人はみな色好みに染まってしまうのです」と、自分の評判を冗談で受け流します。
それに対する「たはれ島」の返歌は「いや、地名のせいで色好みになるわけないでしょう、たはれ島と同じように染川も無実です」と言っているんですね。
在原業平、かなりのチャラ男…? といった感じもしてきます。
この他にも、後撰和歌集などに多くの歌が残されています。
清少納言「枕草子」にも登場
また、平安時代中期に清少納言がまとめた枕草子の百九十段には以下のような文章が。
「島は八十島 浮島 たはれ島 絵島 松ヶ浦島 豊浦の島 まがきの島」
「島と言えば」というテーマでいくつか島の名前を挙げた中に「たはれ島」の名前が入っています。
調べてみると、平安時代、国司などが熊本に入る際には海路が中心。有明海から緑川河口に入るルートが使われていたそうですが、その航海の目印となったため名前を知られたのではないかと考えられています。
特に清少納言の父親、清原元輔は肥後守として九州に赴いたとされており、父親から「たわれ島」の話を聞いたのかもしれません。